「社内ChatGPT」という言葉には、実際には3つの異なるものが含まれています。 法人プランを契約して全員に配ること、社内文書を検索して回答に使う環境(RAG)を構築すること、業務システムと連携させて社内データを見て答えさせること。どれを指しているかで、費用の性質も、社内で決めておくべきことも、導入後に誰が何をするかも変わります。
この記事では3方式を比較し、製造業の総務部門で就業規則への問い合わせに一次回答させる例を通して、どの方式をどう判断するかを整理します。読み手として想定しているのは、稟議を起こす側、または見積りを比較する側の担当者です。
「社内ChatGPT」に含まれる3つの方式
| 方式 | 内容 | 社内文書の参照 | 費用の性質 |
|---|---|---|---|
| 方式1:法人プランの契約 | 提供元のサービスを全社で使う | できない(都度貼り付けは可能) | 利用者数に応じた月額 |
| 方式2:社内文書を参照する環境の構築 | 文書を検索して回答時に渡す仕組み(RAG) | できる | 構築費+API利用料+保守 |
| 方式3:業務システムと連携した環境 | 社内データベースや業務システムを見て答える | できる+システム連携 | 構築費(方式2より大)+API利用料+保守 |
まず自社の目的がどれかを決めてください。 「全員に安全な環境を配りたい」なら方式1で足ります。「就業規則や社内マニュアルの内容を踏まえて答えてほしい」なら方式2が必要です。「この案件の進捗は」「この顧客の契約条件は」まで答えさせたいなら方式3になります。
目的があいまいなまま見積りを取ると、方式1の提案と方式2の提案が同じ「社内ChatGPT」の名前で並び、金額の桁が違う理由が分からなくなります。比較する前に目的を1行で書けるようにしておくことが、最初の作業です。
方式1:法人プランの契約
何ができるか
全員が同じ環境で使え、管理者がアカウントと設定を一元管理できます。入力内容の学習利用について、既定で学習に使わない設定になっているサービスもあります。個人が無料版を勝手に使っている状態(いわゆる野良利用)を止め、会社として管理された環境に置き換えるのが主な目的です。
プランや契約形態によって条件が異なるため、契約時点の利用規約とデータの取り扱いの記載を確認してください。 同じ提供元でも、個人向け・チーム向け・法人向けで学習利用の既定値や保存期間が違うことがあります。
個人情報を入力する場合の前提
個人情報保護委員会は2023年6月2日付で「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表し、個人情報取扱事業者が生成AIサービスを使う際の注意点を2つ示しています。要約すると、(1)個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、特定した利用目的を達成するために必要な範囲内であることを確認すること、(2)本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合は個人情報保護法に違反する可能性があるため、提供事業者がその個人データを機械学習に利用しないこと等を確認すること、です(出典1)。
つまり法人プランを選ぶ場面でも、「学習に使われない契約か」「社員が個人情報を入力する業務があるか」の2点は、契約前に整理しておく必要があります。方式を選ぶ前の共通の宿題と考えてください。
費用
利用者数に応じた月額課金が一般的です。人数分の積み上げになるため、全社導入では相応の金額になります。一方で初期費用はほとんどかからず、契約したその日から使い始められます。
向くケース
- 文章の作成・要約・翻訳が用途の中心
- 個人アカウントの野良利用を止めたい
- すぐに始めたい
- 社内文書を参照させる必要が今はない
決めておくこと
導入と同時に、入力してよい情報の線引きを決めてください。環境を配るだけでは、何を入力してよいかの判断は揃いません。 個人情報・取引先の機密・未公開の財務情報のどれを入力禁止にするか、禁止ではなく条件付きで許可するものは何かを、一覧にして配布します。ルールの整備の観点は生成AIのセキュリティ|社内で決める7項目にまとめています。
方式2:社内文書を参照する環境の構築
仕組み
質問に関係する社内文書を検索し、その内容をふまえて回答します。この仕組みはRAG(Retrieval-Augmented Generation、検索拡張生成)と呼ばれます。オープンソースのLLMアプリ開発基盤であるDifyの公式ドキュメントでは、RAGを「ユーザーが質問すると、まずナレッジから最も関連性の高い情報を検索し、それを追加の信頼ソースとして回答に使う」仕組みとして説明し、想定ユースケースの一つに、従業員が社内の方針や手順に素早くアクセスできる社内ナレッジポータルを挙げています(出典2)。
社内マニュアル・規程・過去の資料を参照させたい場合はこの方式が必要です。 法人プランに文書を都度貼り付けて質問することもできますが、「どの文書に書いてあるか」を人が知っている前提になるため、問い合わせ削減の効果は限られます。仕組みの詳細は社内AI(RAG)構築の費用と手順で扱っています。
費用
構築費用に加え、運用時のAPI利用料が発生します。API利用料は処理する文章量と質問件数で決まるため、利用者数ではなく利用量に比例します。当社ではAI組込み開発を800,000円〜(税抜・要件見積)としています。月額の見積り方はAI開発のAPI利用料|月額の見積り方にまとめています。
向くケース
- 社内の問い合わせが情報システムや総務に集中している
- 探すのに時間がかかる文書が多い
- 新しく入った人が同じことを何度も聞いている
- 規程やマニュアルが改訂されるたびに問い合わせが増える
前提になる作業
参照させる文書の整理が必要です。 古い版と新しい版が混在している状態では、古い内容が回答に出ます。Difyのドキュメントでも、ナレッジ機能の運用としてドキュメントやチャンク(分割された文書の断片)の追加・編集・削除でナレッジを最新かつ正確に保つこと、メタデータを付けて絞り込み検索の精度を上げることが案内されています(出典2)。ツールが何であれ、この「最新に保つ」作業は人が担います。
| 作業 | 内容 | 担当の目安 |
|---|---|---|
| 対象文書の選定 | 何を参照させるか、何を外すかを決める | 文書の所管部門 |
| 古い版の除外 | 更新されていない文書・廃止済み規程を外す | 文書の所管部門 |
| 部門・事業所の区分付け | どの拠点・部門に適用される文書かの属性を付ける | 所管部門+開発側 |
| 回答の型の決定 | 条文引用+担当窓口の案内、など出力の形式を決める | 発注側+開発側 |
| 更新担当の決定 | 文書が改訂されたとき誰が差し替えるか | 発注側 |
方式3:業務システムと連携した環境
何ができるか
社内データベースや業務システムの情報を見て回答します。「この案件の進捗は」「この顧客の契約内容は」「この品番の在庫は」といった、文書ではなくデータに答えがある質問に対応できます。
費用と期間
連携先の数が費用と期間に直結します。既存システムにAPIが用意されているかで、工数が大きく変わります。APIがないシステムは、画面操作の自動化やデータのエクスポート経由で繋ぐことになり、安定性と保守性が下がります。見積りの段階で「連携先ごとにAPIの有無」を確認してください。
向くケース
- 複数のシステムを行き来して情報を探している
- 担当者しか知らない場所にデータがある
- 「調べて折り返す」対応が業務の中で多い
注意点
権限の設計が必須になります。 全員が全データを見られる状態にすると、人事情報や取引条件が誰にでも見える環境になります。誰がどこまで見られるかを、既存システムの権限と揃えて設計してください。総務が扱う従業員の個人データは、方式1で述べた個人情報保護委員会の注意点がそのまま当てはまる領域でもあります。
3方式の比較(30名規模を想定)
| 比較軸 | 方式1:法人プラン | 方式2:文書参照(RAG) | 方式3:システム連携 |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | ほぼなし | 構築費 | 構築費(方式2より大) |
| 月額の性質 | 利用者数に比例 | API利用料(利用量に比例)+保守 | API利用料+保守 |
| 導入までの期間 | 契約当日〜数日(入力ルールの整備は別途) | 2〜4ヶ月(文書整理を含む) | 連携先の数で変動 |
| 社内文書の参照 | 都度貼り付け | 自動で検索 | 自動で検索+データ参照 |
| 運用の主な作業 | アカウント管理・ルール周知 | 文書の更新・回答ログの確認 | 左記+権限とシステム変更への追従 |
| 個人情報の扱い | 入力ルールで統制 | 参照文書の選定と入力ルール | 権限設計が中心 |
方式1と方式2は排他ではありません。 全員に法人プランを配りつつ、総務や情報システムへの問い合わせだけは方式2の環境で受ける、という組み合わせが実務では多くなります。方式3は、方式2を運用して「文書だけでは答えられない質問」が可視化されてから検討しても遅くありません。
導入の手順と期間の目安
方式2を前提にした場合の流れです。方式1は表の1〜2と6だけで完了します。
| 手順 | 内容 | 期間の目安 | 発注側が用意するもの |
|---|---|---|---|
| 1. 目的の確定 | 配るのか、社内情報を踏まえさせるのか | 1週間 | 問い合わせが集中している業務の一覧 |
| 2. 入力ルールの決定 | 個人情報・機密の線引き | 1〜2週間 | 既存の情報管理規程 |
| 3. 対象文書の整理 | 現行版の確定・廃止版の除外 | 2〜4週間 | 規程・マニュアルの一覧と改訂履歴 |
| 4. 構築・試用 | 検索精度の確認・回答の型の調整 | 4〜8週間 | 実際の問い合わせ例(匿名化) |
| 5. 検収 | 想定質問での回答確認・答えない範囲の確認 | 1〜2週間 | 検収に立つ担当者 |
| 6. 運用開始 | 利用者への説明・更新手順の引き渡し | — | 更新担当の指名 |
手順1〜5の目安を合計すると9〜17週間、約2〜4ヶ月になります。比較表の「導入までの期間」はこの合計で、開発工程だけの期間ではありません。期間が延びる最大の要因は、3の文書整理です。 開発そのものより、「この規程は今も有効か」「どちらが最新版か」を所管部門に確認する時間がかかります。稟議の段階で、この作業に所管部門の時間を確保することを明記しておくと進行が安定します。
業種×部門で当てはめる
3方式の判断を、実際の業務に当てはめて確認します。以下は想定の典型例で、特定の顧客の実績ではありません。
例:製造業の総務部門で就業規則・社内規程への問い合わせに一次回答する
製造業の総務部門には、就業規則と社内規程に関する問い合わせが集中します。慶弔休暇の日数、時間外勤務の申請手順、通勤手当の変更届、育児休業の取得要件、交替勤務の割増の考え方。回答は規程に書いてあるのに、問い合わせる側は「どの規程の何条か」を知らないので、総務の担当者が毎回同じ文書を開いて答えることになります。工場が複数あれば、拠点ごとに勤務ルールの付則が違い、さらに手間が増えます。
この業務に社内ChatGPTを当てる場合、方式の判断は次のようになります。「全員に環境を配る」だけの方式1では、この問い合わせは減りません。 規程の内容を踏まえて答えるには、就業規則本則・賃金規程・育児介護休業規程・慶弔見舞金規程・通勤手当規程・安全衛生規程・拠点別の勤務付則を検索対象にした方式2が必要です。一方、個々の従業員の残業時間や給与明細を見て答える方式3は、この段階では要りません。個別の労務判断は人が担うと決めておくほうが、設計も運用も軽くなります。
回答の型は「該当する規程名と条文を引用し、手続きの窓口を案内する」に固定します。「慶弔休暇は何日ですか」に対して、該当条文の文言をそのまま示し、申請フォームの場所と総務の窓口を添える形です。AIが条文を解釈して要約するのではなく、原文を引くことで、回答の正誤を利用者自身が確認できます。答えない範囲も先に決めます。 「私の場合は取得できますか」のような個別事情の判断、人事評価や懲戒に関わる質問、他人の情報を尋ねる質問は、回答せず総務に引き継ぐ設計にします。同時に、利用者が氏名や社員番号などの個人情報を入力しなくても質問できる案内文を画面に置きます。
ここで効いてくるのが版管理です。厚生労働省のモデル就業規則のページでは、常時10人以上の従業員を使用する使用者は労働基準法第89条により就業規則を作成して所轄の労働基準監督署長に届け出る義務があり、変更時も同様に届出が必要であること、そしてモデル就業規則自体が令和7年12月に改訂され、休暇に関する規程例の追加などが行われたことが示されています(出典3)。つまり就業規則は法改正に合わせて改訂される文書であり、参照環境に古い版が残っていれば、古い休暇日数や旧手続きで回答します。総務が規程を改訂したら参照文書を差し替える、という手順を運用に組み込むことが、この用途の精度を決めます。
導入後に見る指標は、総務への問い合わせ件数の推移と、回答が参照した条文が正しかった割合の2つに絞ります。前者は導入前の1ヶ月分を記録しておかないと比較できないので、目的の確定と同時に記録を始めてください。後者は回答ログを月に一度、総務の担当者が抜き取りで確認します。誤答が出た場合、原因は多くの場合「文書側の版の混在」か「回答の型からの逸脱」のどちらかであり、モデルの性能を疑う前にこの2点を見ます。
当社が自社で運用して分かったこと
当社は自社サイト500ページ超をAIで開発・運用し、サイト上のAIチャットも自社で構築して運用しています。そこで分かったのは、回答の質を左右するのはモデルの性能より、参照させる情報の整理と「答えない範囲」の設計だということです。答えられない質問を無理に答えさせるより、人に引き継ぐ導線を用意したほうが、利用者の信頼は保たれます。
この経験は、社内向けの環境にもそのまま当てはまります。参照文書が整っていない状態で構築に進んでも、精度は上がりません。 当社では文書整理の段階からご一緒し、方式1で足りると判断した場合はその旨をお伝えします。
当社の費用
| プラン | 料金 | 初期費用・契約条件 | 含まれるもの |
|---|---|---|---|
| 業務自動化ミニ開発 | ¥300,000〜(税抜・単発) | — | 1業務の自動化ツールを設計・開発/例: 見積書生成・日報集計・レポート自動作成/要件整理から納品まで2〜4週間/納品後1ヶ月の動作フォロー付き |
| AI組込み開発おすすめ | ¥800,000〜(税抜・要件見積) | — | 社内チャットボット・RAG(社内ナレッジAI)/Claude・GPT・Gemini API統合/業務アプリ・ダッシュボード開発/開発期間1〜3ヶ月・保守プランは別途 |
| AI開発顧問 | ¥300,000/ 月(税抜) | 契約期間 最低3ヶ月(以降1ヶ月単位) 最低期間の総額 ¥900,000(¥300,000×3ヶ月) | Claude Code環境構築・開発伴走/社内メンバーの内製化支援/月次の開発ロードマップ設計/チャット相談・コードレビュー |
方式2(社内文書を参照する環境)はAI組込み開発の代表的な依頼内容です。まず1部門・1業務に絞って業務自動化ミニ開発(300,000円〜・税抜・単発)で試し、効果を見てから対象文書と部門を広げる進め方もできます。内製化を進めたい場合は、AI開発顧問(300,000円/月・税抜・最低3ヶ月)で社内の担当者に運用と改修を引き継ぎます。
初回30分の相談は無料・オンライン対応・秘密厳守です。相談の結果、法人プランの契約で足りると判断した場合は、構築をご提案せずその理由をお伝えします。
商談で必ず聞かれる質問
Q1. 作業範囲はどこまでですか
当社が担うのは、目的の整理、入力ルールの案づくり、対象文書の取り込み設計、検索と回答の型の構築、試用期間中の精度調整、検収、運用担当への引き渡しです。発注側にお願いするのは、対象文書の現行版の確定と、実際の問い合わせ例(匿名化したもの)の提供、検収に立つ担当者の指名です。文書のどれが最新版かは、当社では判断できません。 ここは所管部門の作業として、着手前に時間を確保していただきます。
Q2. 導入後の運用は誰がやりますか
日常の運用は発注側の担当者が担います。具体的には、規程が改訂されたときの参照文書の差し替え、月に一度の回答ログの抜き取り確認、利用者からの「答えてくれなかった」の受け付けです。納品時に、これらの手順を画面付きで引き渡します。改修が必要になった場合は都度見積り、または開発顧問で継続的にご一緒する形のどちらかです。「納品後の窓口はどこか」は契約前に確認してください。
Q3. 依頼前に何を用意すればよいですか
3点です。第一に、問い合わせが集中している業務と、その件数のおおよその記録。第二に、参照させたい文書の一覧と、それぞれの所管部門・最終改訂日。第三に、入力してよい情報の線引きについての現時点の考え。いずれも完成している必要はなく、初回の相談で一緒に整理できます。文書一覧に「最終改訂日」の欄があると、版の混在の有無がその場で分かります。
まとめ
- 「社内ChatGPT」には3つの異なる方式が含まれ、費用の性質と運用負荷が別物
- 「全員に環境を配る」なら法人プランで足りる
- 「就業規則や社内文書を踏まえて答えさせる」なら構築(RAG)が必要
- 個人情報を含む入力は、利用目的の範囲内か・学習に使われないかを確認する(個人情報保護委員会の注意喚起)
- 構築の前提として参照文書の整理と更新担当の決定が要る。就業規則は改訂される文書なので版管理が精度を決める
- システム連携する場合は権限の設計が必須
- 方式1と方式2は組み合わせて使える
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出典
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日) — 個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する際の注意点(利用目的の範囲内であることの確認、機械学習に利用しないことの確認)
- Dify Docs「ナレッジ」 — RAG(検索拡張生成)の仕組み、社内ナレッジポータルのユースケース、ドキュメント・チャンクの管理とメタデータによる絞り込み
- 厚生労働省「モデル就業規則について」 — 労働基準法第89条に基づく就業規則の作成・届出義務(常時10人以上)と、令和7年12月改訂の内容